心理療法室

ともしび φανός

進め方
はじめに

支援には様々な形態があります。支援の初期段階で、それぞれの方にどのような方法が求められているかを検討しますが、ともしびでは特に以下の3つを大切な方法だと考えています。

精神分析(的心理療法)

 当室では、精神分析、もしくは精神分析的心理療法と呼ばれる種類の心理療法を提供しています。これは心の中に「無意識」と呼ばれる領域があるということを認め、様々な心の問題はこの無意識の領域からやってきていると考える立場にある心理療法です。心の中には社会的な現実とは異なる心の中の現実があり、この内的現実の出来事が創造的である時には生き生きとした人生がもたらされ、それが不安や葛藤、破壊性を持つ時には心の問題となって現れてくると考えています。
 言葉を変えれば、精神分析的な理解では、表に現れる心の問題の奥底に無意識の動機を読み取ります。心の問題は何か必要性があって問題となっているのです。「それ」が明らかになると、しばしば「ああ、そういうことだったのか」と腑に落ちる体験に変化するでしょう。自分自身の中に心的な現実を認め、それとともに生きること、それによって心の広がりと深まりをもたらし、より良く社会的な現実を生きられるようになること、この2つが精神分析的な心理療法の目指すところです。
 こうした無意識の内的現実に近づくために、私たちは通常、「自由連想」という方法を用います。これは、心に浮かぶことを何であれ報告してもらうという面接の進め方で、無意識の動機に気付くために、列車の窓の外を流れる景色を眺めるように、心の中に目を向けてもらう方法です。心理療法家はその自由連想を受け取り、心の風景に何が起きているのか、どこに不安や葛藤があり、それを解消しようとしてどのような心の活動が行われているのか、その無意識の動機を考えます。そして、その理解を伝えます。これを「解釈」と呼びます。自由連想をすること、解釈を聞くことの中に、自分と世界との気付かれていなかった関係を見いだすことになるでしょう。

認知行動療法

 現在、最も広く適用されている心理療法が認知行動療法です。これはそれぞれの人の中にある物事の捉え方のクセを知り、具体的な行動(時に練習)を通じて少しずつ考え方や振る舞い方を変えていく心理療法です。さまざまな問題について、その成り立ちや治療方法の研究を重ね、実証的に基礎づけされたかたちで実践を行うものになります。
 自分でも気付かない心のクセというのは、姿勢のようなものです。鏡を通してみれば目にすることはできるけれども、なかなか自分では気付きにくいものであり、気付いて姿勢を整えたとしても時間が経つとまた元の姿勢に戻っていってしまうものです。姿勢が悪ければ身体の動きがぎこちなくなったり、疲れがたまりやすくなったり、ケガや故障を引き起こしやすくなったりします。問題を引き起こすこのクセのようなものを少しずつ変えていくことが認知行動療法の目指すところです。
 この目標を達成するために、アセスメントを行い、考え方や行動の仕方のクセを捉えます。それがどんな感情を引き起こし、負のサイクルを続けてしまうことになるのか、そのメカニズムを捉えます。そのクセを変えていくためにどのような技法が適しているかを、研究の知見とそれぞれの人の生活状況や人となりに合わせて組み合わせ、心理療法の中で実践をしてみます。日常生活の中で実践ができるように提案することもあります。自分で自分のくせに気付くようになると、自分に合った形で自分と付き合い、人と関わることができるようになるでしょう。

親面接

 治療や支援において、親面接の理論の蓄積は驚くほど少ないものです。当室ではアタッチメント理論を足がかりに、子どもの問題に苦慮しておられる親御さんへの支援を行います。
 ヒトには生まれつき安心を求めて養育者にくっつく傾向があります。このような結びつきをアタッチメントと呼んで、人の心のもっとも基本的な土台にはアタッチメントによる安心感がある、とするのがアタッチメント理論です。親子の間でどのように子どもの感情を調整し、安心感を得るかという視点は、現在の国際的な親子支援におけるスタンダードとなっています。
 子どもの問題についてのアタッチメント理論の発想は、以下のようなものですーーどのような問題も子どもが恐れや不安の表われで、周囲の大人にはそのシグナルに気付き、意味するところを理解して、適切な対応をすることが求められている。思春期になれば、くっついて安心するというよりも、子どもの自立と親の心配との葛藤の中に安心感の問題が現れます。そうした葛藤を扱い、乗り越えるための感性が求められています。
 親面接とは、この感性を高める支援を行うことに他ならない、と私たちは考えています。海外や日本においても、そのための特別なプログラムが実施されていますが、当室で行うのは、むしろお子さんの問題がどのような状況で発生し、それがどのようなニードにもとづいているか、を一緒に考え、とりうる手立てを構築していく作業の中で、この感性を豊かすることです。子どもの最大の支援者は親御さんであり、その能力を高めることを当室の方法としています。